Netflix 邦題「すっぱいブドウ」(ネタバレあり)

最近、自分探しを始めてしまった私は(相方には「自分の行き先をわかっている人だと思っていた」と言われてしまった。そう、ケーキ屋さんじゃ食べていけないということに気がつく前まではね)、長い通勤時間をNetflixを見るのに使っている。年初から夏まで社労士の勉強をし通して、その時間を取り返すかのように遊んでいるのだ。考えてみれば、1日3度の食事だって、夏前後に「夕食だけ炭水化物抜きダイエット」を始めてから最近我慢できなくなって暴飲暴食している気がする。でも食べたり飲んだりするのはとっても楽しい。そのあとトイレやお風呂でジーンズのウエストに乗っかってしまう、こんにゃくゼリー状の贅肉に幻滅するのだが、、、食べては一時の楽しさを味わい、その後幻滅する悪循環から抜けない。もしかしたら私にとって食べるのは海外の人が大好きな(少なくとも海外ドラマに登場する登場人物たちが好きな)ドラッグに相当するのかも。
とにかく、Netflixで多少将来に関係しそうな番組があればという気持ちもあって、ワイン系の番組はダウンロードして見ている。その中でも「すっぱいぶどう」は予想していない面白さだった。ワインブームについてのまたありがちな番組かと思ったが、なんと、ワイン詐欺師の話なのである。ワインのオークションに、アジア系のルックスの若者が入っていって、高級ワインの値段を釣り上げた上で買い占める。その後オークション会社や新しいワイン仲間の友人に売っていくのだが、あまりの取引規模や売上高のせいで、途中からライバルコレクターや、ブルゴーニュの生産者の目に留まり、偽造が少しずつバレていく。しかし当の若者は好感度が高く、ワインを味わう舌も「高感度」であるため、新しく作ったワイン仲間(カモ)たちにはものすごく好かれる。それでいて偽造が少しずつ暴かれていっても、その好感度は崩さず、かつワインの出どころや家族については相手にほとんど情報を与えない。結局、検察側に元CIA捜査官等腕の良いチームが揃い、最終的にそのチームが若者の家に押し入ると、家中から大量に偽造ラベルや、(本物のワインの)ラベルを剥がしている途中の瓶、古い木箱や偽造する際の複数ワインのブレンドの割合等の物品が出た。結局裁判では10年の懲役になったそうだ。(10年は殺人より長い懲役期間とのことだ。)
若者の友人になって(カモになって)たくさん買ってしまったワイン知識人の数人がまだ騙された実感がないこと、また騙された事実はひどく悲しいが、その若者と過ごした楽しい時間が忘れられず、またその若者に会いたいと思っていることにびっくりした。偽造を暴いている側も、その若者の味覚やラベル偽造のセンス(古く見せたりする手法)や人の良さに感心しているような感じだった。
その若者は本当の詐欺師だったのだろう。人間的魅力や話術や味覚で、騙される側に犯罪が暴かれた後も被害にあった実感を抱かせなかったり、捜査側すらも知識や人の良さに感心している。自分が味わった古い上質な高いワインを、今市場に出回っているワインのブレンドで再現し売ったわけだからよっぽど味覚が鋭くて、ブレンド上手だったのだろう。知識人たちが「ブラインドテイスティングで正確に当ててくる」と絶賛していたのも、自分で味の再現をしていたから身についたのかもしれない。勉強でいうと(ワインでは特にやりがちな)知識のインプットだけでなく大量アウトプット&実践で確実に知識をつけていったのだ。
その若者がアメリカ人に好かれたことに関しては、外資系企業に勤め、日本人社員よりも外国人社員に好かれる私としてはよくわかる。アメリカ人は特によくしゃべり、よく笑う人間が好きなのだ。そのキャラであるだけで「良い人」ということになり、信用されやすくなる気がする。実際、転職活動をしていてよく見られたパターンは、外国人上司・もしくは外国人関係者は採用面接でおしゃべりな私を見て「コミュニケーション能力が高く仕事をわかっている」と思う。日本人は私の経歴を見て「(採用するには)まだまだだな」と思う。ついでに私のおしゃべりなところも生意気なようで鼻持ちならない。私は日本人との面接すると損すると思うくらいだ。今回の詐欺師の若者は私の思うアメリカ人にうける典型的な「おしゃべり・ニコニコ」タイプで、かつ、捜査されることになるとアジア人式に口を閉ざす。沈黙は金なりだ。語らないからアメリカ人捜査チームは何もつかめない。語らないから墓穴も掘らない。ただ、証拠は十分に出ているので結果的に負けてしまった状況だ。ただ、これも私の見方からすれば勝ちのようなものだ。ワイン知識人たちが「騙されたと思えない」と番組で言っているし、全く若者には立腹しておらず、それどころかまた会いたいと思っているのだから。知識人としても、プライドが高く、騙されたことは認めたくない気持ちも多少あるとは思うが、それを考えてもプライドを逆手にとってうまくやった。また、ワインという人の主観でランクづけされるものをターゲットにしたのも良かったのかもしれない。今回偽造が分かったのは、ボトルのラベルのスペルミスや古さの演出が完璧すぎたり、中途半端すぎたり、そもそもラベルに記載のあるメーカーやブランドラインはラベルに記載されている年代には作られていなかったりと、ワインの外観によるものだった。偽造されてもなかなか味ではわからないということだ。今回の悪役には拍手である。
物語で悪役が妙にセクシーで魅力的なのは、全ての人間の中に多少なりとも悪くて型破りな部分があって、その普段出てこない悪の部分が共感しているからか。少なくとも、私の場合は歳を取るごとに悪役が好きになってくる。